「所有」から「見極める力」へ——Highsnobiety『Status Economy』が示すGen Z、ホスピタリティ、新しいステータス
Highsnobietyの『The Status Economy』は、ステータスがファッションだけでなく、食、ビューティ、ホスピタリティ、旅行へ広がっていることを示します。重要なのは高価なものを持つことより、何を選び、なぜ選ぶかという「見極める力」です。
この10年、ファッションは文化的知識や所属を示す重要な手段でした。限定スニーカー、コラボレーション、新進デザイナーを知っていること自体が、その人の「何を知っているか」を表していました。
その仕組みが消えたわけではありません。しかし、ステータスを示す領域はファッションだけではなくなっています。
冷蔵庫の中身。香水。予約するレストラン。バーで何を頼むか。どこへ旅行し、どの街区に泊まるか。こうした選択も、審美眼や文化的な知識を伝える手段になっています。
Highsnobietyの3部作リサーチ『The Status Economy』は、こうしたステータス記号の変化を追っています。2026年9月、H. MIYAO CORP.はニューヨークのLudlow Houseで行われた第3章「Hospitality」の発表とパネルディスカッションに参加しました。
私たちの解釈では、これは単純な「モノから体験へ」という話ではありません。
ステータスが、何を所有しているかから、何を選び取れるかへ移っている。
『The Status Economy』とは何か
Highsnobietyはこのシリーズで、ステータスを示す対象がどのように変化しているかを検証しています。
第1章はGroceries。食品、飲料、パッケージ、冷蔵庫の中身までが、趣味や文化的知識の表現になり得ることを扱いました。
第2章はBeauty。香り、スキンケア、ウェルネス、グルーミング、日々のルーティンへ広がります。
第3章Hospitalityでは、レストラン、バー、ホテル、飲酒、旅行が対象になります。
共通しているのは、ステータスが断片化しているという見方です。ファッションは依然重要ですが、ライフスタイル全体がアイデンティティ、知識、趣味を伝える複数の「表面」になっています。
この調査は「Gen Z全体」の話ではない
解釈上、重要な前提があります。
Highsnobietyは、文化的な新しい兆候を比較的早く捉える消費者層をCultural Pioneersと呼んでいます。
このシリーズでは、HighsnobietyのCultural Pioneer 730人を調査し、GWIを通じた約1,000人のGen Z / Gen Y一般消費者と比較しています。
したがって、以下の数字は「Gen Z全体」を代表するものではありません。文化への関与が強い先行層の変化を見るデータとして読むべきです。
若いCultural Pioneersは、外出しなくなったのではなく、使い方が変わっている
調査対象のGen Z Cultural Pioneersでは、88%が外出時にアルコールは体験の一部、または“main character”だと回答しています。
また、約32%が可処分所得の20%以上を外出に使うと答え、一般Gen Zでは15%でした。
過去12か月でバー、レストラン、クラブへの支出が増えたと回答した比率は、Gen Z Cultural Pioneersで48%、一般Gen Zで25%。旅行支出ではそれぞれ58%と39%でした。
これはGen Z全体が高額消費へ向かっていることを意味しません。
より限定的に言えば、文化関与度の高い層では、可処分所得の使い先としてホスピタリティや旅行の比重が高まっている可能性があります。
一方、ライブセッションでは、その背景が「価値観の変化」なのか「クレジットカード債務を含む過剰支出」なのかは未解決だという指摘もありました。データは支出先の変化を示しますが、その原資までは説明していません。
ホスピタリティは文化的知識を示す言語になる
興味深いのは、価格とステータスが同じではないことです。
最も高いホテルや最も予約困難な店を選ぶことだけがステータスではありません。自然派ワインを理解している、カクテルの背景を知っている、ある店が広く知られる前に見つけている、特定のコミュニティで意味を持つ場所を知っている、といった知識そのものが価値になります。
調査では、65%のGen Z Cultural Pioneersが「自然派ワインやニッチなカクテルに詳しいことは文化資本の一種」と回答しました。
一方、82%は「老舗の酒類ブランドは古く、遊び心のある現代的ブランドの方が好ましい」という見方に否定的でした。
つまり、若者向けであることと、若者っぽく見せることは同じではありません。歴史、職人性、産地、儀式、由来は、現代の消費者にも価値を持ち得ます。
課題は、それらを今の文脈で理解できる形にすることです。
希少になっているのは「高価格」ではなく「見極める力」
商品や情報が豊富な時代には、選択肢そのものは不足していません。
むしろ価値が高くなるのは、何に注意を向けるべきかを判断する力です。
「高いから良い」のではなく、なぜそれを選ぶのかを理解していること。ある時は高価なホテルを選び、別の時は小さな地域店を選ぶ。その判断自体が文化的なシグナルになります。
ステータスは、所有からdiscernment——見極める力へ移っている。
マス・バイラルより、Curated Relevance
ホスピタリティにとって、SNSで「バズる」ことは常に良いこととは限りません。
全員が同じ場所を知り、同じ投稿を見て、同じおすすめを共有すると、その情報が文化的シグナルとして持っていた価値は薄れます。
もちろん、消費者は今もオンラインで店を発見し、体験を共有します。
しかしブランド側には、visibility(見えること)とubiquity(どこにでもあること)を分けて考える必要があります。
特定の層にとっては、最大露出よりもcurated relevance——適切な相手に適切な文脈で届くことの方が重要になります。
旅も「自己編集」の手段になる
旅行でも同様です。
「東京に行った」「メキシコシティに行った」だけでは、文化的シグナルとしては十分ではなくなっています。
どの街区に泊まり、どのホテルを選び、どのレストラン、バー、ショップ、ギャラリーを訪ね、どの情報源を信用したか。
旅先そのものより、そこでどう選択したかが、その人の視点を表します。
ニューヨークのライブディスカッションが加えたもの
発表後のパネルでは、HighsnobietyのHarry Bainbridgeに加え、Marriott InternationalのGeorge Fleck、BeccaのPei-Ru Keh、建築デザイナーでTime Again創業者のNick Poeが参加しました。
議論は文化的シグナルから、「画面越しではなく、物理的な体験を意味あるものにするものは何か」へ広がりました。
Ritualと人間的なサービス
George Fleckは、St. Regisのシャンパーニュ・サブラージュのような儀式や、手書きのメモ、ちょっとした気配りといったサービスに触れました。
価値は必ずしも高額な設備から生まれるのではありません。ゲストが「認識された」と感じる小さな行為が、体験を記憶に残します。
Gen Z向けに「若く見せる」必要はない
Pei-Ru Kehの議論では、Gen Zに合わせようとし過ぎる危険性が印象的でした。
価格、メニュー、プログラム、入り方などのハードルは調整できても、ブランド全体を世代イメージに合わせて作り変える必要はありません。
大切なのは、authenticityを守りながら、入り口を作ることです。
選択肢が多いほど、編集が価値になる
Nick Poeは、良い体験が必ずしも「多くを提供すること」ではないと指摘しました。
何を入れるかだけでなく、何をあえて入れないか。無限に選べる時代には、編集そのものが価値になります。
DiscoveryとBelongingは両方必要
ライブQ&Aでは、「いつもの店」「顔を覚えてもらえる場所」の価値も議論されました。
人は新しい発見を求める一方で、自分を知ってくれる場所にも戻ります。
Discoveryは文化的価値を作り、familiarityは愛着を作る。
AIは舞台裏、人間性は表舞台
AIについては、予約情報や好みの共有、反復質問の削減など、スタッフを支える舞台裏の用途が有効ではないかという議論がありました。
HMCの解釈では、ホスピタリティでの有望な形はAutomation backstage. Humanity frontstage.です。
テクノロジーは摩擦を減らせます。しかし記憶を作るのは、まだ人間の役割です。
HMC Perspective:ブランドにとって何を意味するか
1. ステータスは所有から判断力へ
変化の中心は「モノから体験へ」だけではありません。
商品もファッションもラグジュアリーも依然重要です。ただし、選択肢が多いほど、何を選ぶべきかを知っていること自体が価値になります。
2. 文化的関連性に、必ずしも最大露出は必要ない
大規模イベント、最大リーチ、最多インプレッションがいつも最適とは限りません。
適切な人が、適切な場所で、ブランドの価値を理解できる体験をする方が、文化的意味を作ることがあります。
3. 日本企業は、すでに必要な要素を多く持っている
職人性、由来、儀式、季節性、素材、細部への配慮、地域知識、人によるサービス。
多くの日本ブランドは、この新しいステータス体系と相性の良い資産を持っています。
問題は、それを「Made in Japan」「100年の歴史」「職人が作っています」とだけ説明して終わることです。
事実であるだけでは、文化的関連性にはなりません。
海外市場では、それを体験へ翻訳する必要があります。学べる儀式、気づける細部、誰かに話したくなるストーリー、商品が自然に存在できる場所、文脈を与えるコラボレーション。
ヘリテージを説明するのではなく、体験可能・発見可能・社会的に意味のあるものにする。
Conclusion
HighsnobietyのHospitalityレポートは、表面的にはGen Z、レストラン、飲酒、ホテル、旅行についての調査です。
より大きなテーマは、ステータスそのものの変化です。
商品、レビュー、推薦、アルゴリズムが無限に存在する環境では、「より多く持つこと」だけでは差がつきません。
何を見るか。何を無視するか。何がその場所にふさわしいか。なぜそれを選ぶのか。
その判断が、文化的価値を作ります。
所有から、見極める力へ。
ブランドにとって次の競争優位は、露出を増やすことだけではなく、より良い判断と文脈を示すことなのかもしれません。
Source Note
本記事は、Highsnobietyの2026年『The Status Economy: Hospitality』レポート、およびH. MIYAO CORP.がニューヨークで参加した発表、パネルディスカッション、Q&Aを主な情報源としています。Highsnobietyの統計は、特にGen Z Cultural Pioneersなど同社が定義する特定の調査対象に関するものであり、Gen Z全体を代表するデータとしては扱っていません。ライブディスカッションで共有された内容は、公開レポートの調査結果とは区別して記載しています。