一つのブランドで複数世代に届くには——ビューティーマーケティングに学ぶブランド戦略
Launchmetricsの2026年調査が示すのは、世代ごとに別のブランドをつくる必要はないということ。ブランドの核を保ちつつ、伝え手・チャネル・表現方法を変えることで、対象層を広げられる。
幅広い世代に届くために、ブランドを無個性にする必要はない。ニューヨークで行われたLaunchmetricsの議論から見えたのは、ブランドの核を明確に保ち、世代ごとに伝え手、チャネル、表現形式を変えるという考え方だ。
ビューティーマーケティングはこの10年ほど、次の世代を追い続けてきた。ミレニアル世代、Z世代、そしてアルファ世代へ。
しかし2026年9月22日、ニューヨークで開催されたLaunchmetricsの朝食イベント「Beauty in the Multigenerational Era: Winning Every Generation」では、別の方向性が示された。ある世代を次の世代に置き換えるのではなく、複数の世代に同時に支持されるブランドをどう構築するかが課題になっている。
同社の関連レポート「Beauty in the Multigenerational Era: Capturing Market Share Across Ages」によると、少なくとも一つのキャンペーンで複数世代への働きかけを意図的に行ったブランドのMedia Impact Value(MIV)は、2025年第4四半期から2026年第1四半期に平均42%増加した。一方、多世代への取り組みが比較的弱いブランドでは36%増だった。
6ポイントの差は興味深い。ただし、ブランドにとってより重要なのは数字そのものではなく、成果を上げた事例の設計思想だ。世代ごとに別のブランドをつくったのではない。ブランドの一貫性を保ちながら、各世代が出会う接点を変えていた。
若い世代を追いかけ続けることの落とし穴
多くのブランドは長年、若い消費者を将来の成長源と位置づけてきた。その理由は理解できる。若い世代は文化を形づくり、トレンドを加速させ、長期にわたって顧客になってくれる可能性がある。
しかし、一世代への過度な集中には別のリスクがある。ブランド自身のアイデンティティよりも、ターゲット層の変化に合わせてブランドを組み替えるようになってしまうことだ。
この緊張関係は、Launchmetricsの議論でも繰り返し取り上げられた。Havas FormulaでBeauty & Wellness部門を率いるSenior Vice President、Angie Castro-Patterson氏は、プラットフォームや協業先ごとの伝え方を考える前に、ブランドとして変えてはいけないものを定める必要があると指摘した。
対象となる人は変わる。表現形式も変わる。発信者も変わる。しかし、ブランドの核まで変えてはいけない。
消費者は一つの場所だけでブランドに接するわけではない。TikTokで商品を知り、一般メディアの記事を読み、店舗で目にし、著名人との協業に触れ、最後に公式サイトを訪れるかもしれない。
接点ごとにブランドの意味が少しずつ異なれば、認知は広がっても、ブランドの輪郭はかえって曖昧になる。
メッセージを統一することと、表現を統一することは違う
Launchmetricsのレポートが強調するのは、すべての世代に同じコンテンツを届けるべきだという話ではない。成果を上げたキャンペーンでは、一貫したブランドメッセージを、対象層に応じて異なる「Voice(発信主体)」やチャネルで届けていた。
OGAKIのFounder & CEO、Renee Ogaki氏はレポートの中で、同じブランドメッセージでも、Z世代のクリエイターなら短いGRWM(身支度動画)で表現し、ミレニアル世代の発信者ならSubstackで紹介し、X世代の皮膚科医なら解説動画で伝えることができると説明している。
伝えるべき価値は同じでも、ストーリーの語り方は異なる。これは単純な年齢別ターゲティングよりも一歩進んだ考え方だ。世代をそれぞれ別の市場として扱うのではなく、一つのブランドに入る複数の入り口として捉える。
MAC——一つのキャンペーンに複数の入り口を設ける
分かりやすい例の一つがMAC Cosmeticsだ。「I Only Wear MAC」キャンペーンには、Kris Jenner、Kristen McMenamy、水原希子、Doja Cat、若い世代のクリエイターなど、幅広い年代の人々が参加した。
Launchmetricsによれば、キャンペーン開始から48時間で490万米ドルのMIVを生み出した。
ただし、注目すべきは規模だけではない。出演者それぞれが、同じキャンペーンへの異なる文化的な入り口をつくった。若い消費者がKris Jennerに共感する必要も、年上の消費者が19歳のクリエイターに自分を重ねる必要もない。
MACは、一人の「万人向け」アンバサダーにすべての層を代表させるのではなく、複数の層を受け止められる一つのアイデアを設計したのである。
ランコム——一つの価値を中心に発信者のネットワークを組む
ランコムの「Absolue Longevity」キャンペーンは、より重層的なアプローチを取った。「ロンジェビティ(長寿・健やかな加齢)」という一つのテーマのもとに、異なる世代のアンバサダー、インフルエンサーへの商品提供、医療専門家による信頼性、エンターテインメントとの協業を組み合わせた。
Launchmetricsの報告では、アンバサダー発表に先立ち、インフルエンサー、編集者、医療専門家へ約1,000箱の商品を送付した。Zoë Saldaña、Demi Moore、Ella McCutcheonらが関わり、展開は映画『The Devil Wears Prada 2』や『Vogue』のエディトリアルにも広がった。
キャンペーンは1か月で650万米ドルのMIVを生み出した。Voice Mix(発信主体別の構成)は、一般メディア38.8%、インフルエンサー24.7%、著名人17.1%、オウンドメディア15.4%、パートナー4.0%だった。
ここから分かるのは、多世代マーケティングが単に異なる年齢のアンバサダーを起用することではないという点だ。キャンペーンの構造そのものを多層化していた。
- 一般メディア:編集者の視点による評価と文脈を提供する。
- インフルエンサー:商品を個人の体験として伝える。
- 著名人:認知と文化的な注目を集める。
- オウンドメディア:ブランド自身の物語を一貫して発信する。
- パートナー:隣接する文化的な場へストーリーを広げる。
一つのチャネルにすべての役割を負わせていない。
見過ごされがちなオウンドメディアの役割
基調講演で興味深かった論点の一つが、オウンドメディアの重要性だった。
LaunchmetricsのDirector of Brand Insights、Krista Johnson氏は、ビューティー分野ではインフルエンサーが依然として大きなメディア効果を生んでいる一方、多世代キャンペーンで成功するブランドではオウンドメディアの存在感が増していると指摘した。
実務上の意味は明確だ。インフルエンサーや一般メディアの発信と異なり、自社サイトや公式SNSはブランドが中心となって内容を管理できる数少ない接点である。
だからといって、自社チャネルだけに閉じこもるべきではない。むしろ逆だ。公式サイトや自社の編集プラットフォームがブランドの中心的な物語を示し、メディア、クリエイター、小売店、パートナーがそれぞれの読者や顧客に向けて解釈・検証することで、価値が高まる。
役割は異なり、どちらも必要だ。
チャネルは流行ではなく、商品の理解のされ方から選ぶ
パネルでは、定型的なチャネル選定への疑問も示された。
メイクアップは、質感、色、塗り方、見た目の変化を動画で伝えやすく、インフルエンサーとの相性が良い。一方、ヘアケアやスキンケアは、説明を重視する形式が効果的な場合もある。
香水はさらに興味深い。FashionistaのBeauty & Style Director、Steph Saltzman氏が指摘したように、香りそのものは画面越しに体験できない。それでも香水を扱うコンテンツは、言葉、雰囲気、アイデンティティを通じて関心や購買につながる表現を発達させてきた。
「今、どのプラットフォームが伸びているか」ではなく、「この商品はどう理解される必要があるか」から考える。
その答えに合わせてチャネルや表現形式を選ぶべきだ。しかし実際のデジタルマーケティングでは、流行のプラットフォームに予算が集まり、商品をその形式に無理に当てはめることも少なくない。
チャネル選択以上に深刻なのは、ブランド発信の分断かもしれない
Castro-Patterson氏が挙げた重要な課題は、PR、インフルエンサー、広告、その他のパートナー間で発信が分断されることだった。代理店ごとに異なるブリーフを受け取り、チームごとに異なる言葉を使い、チャネルごとに別の指標を最適化する。
その結果、消費者が一つのまとまったブランドとして体験できるよう、全体に責任を持つ主体が不在になりかねない。チャネルが増えるほど、この問題は深刻になる。
マルチチャネルで展開していることと、統合されたマーケティングを実現していることは同じではない。
TikTok、Instagram、YouTube、一般メディア、小売、体験イベントに同時に登場していても、共通する戦略的な考え方がなければ、一貫した顧客体験にはならない。
パネルで取り上げられたe.l.f.の事例は、その対照例だった。Castro-Patterson氏によると、代理店、スポークスパーソン、各チームが共通のブランド観から出発し、それぞれの対象層とチャネルに合わせて表現を展開している。
新たなプラットフォーム、クリエイター、キャンペーンを追加する前に、既存のパートナーをつなぐ仕組みを整えるほうが重要な場合もある。
日本ブランドの米国展開にどう生かすか
日本企業が米国市場へ参入するとき、ローカライゼーションを「何もかも現地向けに変えること」と捉えがちだ。言語、ビジュアル、インフルエンサー、SNS、場合によってはポジショニングまで変更する。
必要な調整もある。しかし、対象市場や顧客層が変わるたびに、ブランドのアイデンティティまでつくり直す必要はない。
より実効性のある方法は、変えてはいけない要素と、現地に合わせて変えられる要素を分けることだ。
| 一貫性を保つべき要素 | 市場・対象層に合わせて調整できる要素 |
|---|---|
| ブランドの核となる考え方 | スポークスパーソンやクリエイター |
| 商品の価値提案 | プラットフォームと表現形式 |
| 価値を裏づける根拠 | 文化的な引用や文脈 |
| ブランドアイデンティティと戦略的ポジショニング | 現地パートナーや小売店 |
| 企業が何によって認知されたいか | トーンや具体的な表現 |
複数の現地パートナーが関わると、この区別はさらに重要になる。ディストリビューター、PR会社、クリエイター、小売店が、それぞれ異なる言葉で商品を説明するかもしれない。
中心となるブランドストーリーが定義されていなければ、米国市場でいつの間にか別のブランド像ができあがることがある。それが強みになる場合もあれば、単なる不整合になる場合もある。
海外でのパートナー選定と役割分担については、「日本市場参入で先に選ぶべきは、ディストリビューターか事業開発パートナーか」でも考察している。
HMC Perspective|ブランドの核を明確にし、出会い方を増やす
Launchmetricsの議論から得られる教訓は、すべてのブランドが全世代に等しく訴求すべきだということではない。
また、MIVの増加率が42%対36%だったという比較だけで、多世代マーケティング自体が高い成果の原因だと証明されたわけでもない。MIVはLaunchmetrics独自のメディア効果指標であり、売上高ではない。レポートが示すのは分析対象ブランドで観察された関連性であり、統制された因果実験の結果ではない。
それでも事例には、参考になる共通の構造がある。幅広い世代に届いたブランドは、無個性になることで間口を広げたのではない。一つのブランドへ入る道筋を増やしたのだ。
世代、プラットフォーム、メディア環境が細分化するなかで、課題はコンテンツのバリエーションを増やすことだけではない。それぞれの表現が、同じブランドの価値へとつながっているかを確認することだ。
グローバルブランド、とりわけ新しい市場へ参入する企業にとって、ローカライゼーションの持続的な原則は次のように表現できる。
ブランドの核を明確に保つ。そして、人々がその価値に出会う方法を増やす。
よくある質問
多世代マーケティングとは何か?
一貫したブランドアイデンティティを保ちながら、複数の年齢層とコミュニケーションするアプローチ。発信主体、チャネル、形式、スポークスパーソンは対象層に合わせて変えられるが、中心となる価値提案は共通している。
すべての世代を対象にする必要があるのか?
ない。重要なのは、商品にとって意味のある顧客層を見極め、ポジショニングを弱めずにどう接点をつくるかだ。
オウンドメディアはなぜ重要なのか?
ブランドが中心となるストーリーを直接管理できるためだ。外部メディアやクリエイター、小売店、パートナーはその物語を広げたり評価したりできるが、自社チャネルは一貫した参照点になる。
日本企業の米国進出にとっての示唆は?
商品の価値提案、裏づけ、戦略的なアイデンティティなど、維持すべき要素と、現地のクリエイター、プラットフォーム、文化的な表現、トーン、パートナーなど、調整できる要素を分けることだ。
Media Impact Value(MIV)とは何か?
メディア掲載やSNS投稿などの露出に、定量・定性の要素から推計金額を割り当てるLaunchmetrics独自の指標。メディア効果の評価枠組みであり、売上や収益と同じ意味ではない。
著者について
Hisashi Miyao(宮尾弥)は、ニューヨークを拠点とするH. MIYAO CORP.のFounder & Principal。日本と海外市場をつなぐ市場開拓、パートナー開発、事業機会の創出を支援している。
出典・参考資料
- Launchmetrics, Beauty in the Multigenerational Era: Capturing Market Share Across Ages (2026):レポートPDF
- Launchmetrics, Beauty in the Multigenerational Era: Winning Every Generation、2026年9月22日、ニューヨーク。H. MIYAO CORP.が基調講演・パネルディスカッションに参加。
- Havas Formula:Leadership information
- Fashionista:Team information
英語原文:One Brand, Multiple Generations: What Beauty Marketing Is Getting Right