強いブランドだけでは世界で成長できない——HUMAN MADEによるUNDERCOVER買収計画から考える事業モデル
HUMAN MADEのUNDERCOVER買収計画が示すのは、世界的なブランド認知と拡大可能な事業モデルは別物だということ。海外展開前に見直すべきチャネル、顧客接点、パートナーの役割を考察します。
ブランドの知名度が世界に広がっていることと、事業そのものが世界で成長できる状態にあることは、必ずしも同じではありません。
その違いを考えるうえで興味深いのが、HUMAN MADEによるUNDERCOVERの買収計画です。
2026年9月11日、HUMAN MADEは、日本のファッションブランドUNDERCOVERを展開する株式会社アンダーカバーの全株式を取得する契約を締結したと発表しました。取引完了は2027年2月を予定しています。出典:HUMAN MADE公式発表。
注目したいのは、著名な日本のファッション企業が別の著名ブランドを買収するという事実だけではありません。HUMAN MADEが、本格的なグローバル成長の前に何を変える必要があると考えているかです。
HUMAN MADEはUNDERCOVERを、30年以上の歴史を持ち、ストリートとモードの間で独自の地位を築き、世界的な認知を得ているブランドと評価しています。一方、そのブランド価値が事業成果に十分結びついていないとの認識も示しています。そこで、UNDERCOVERの創造性と文化的価値にHUMAN MADEの経営機能を組み合わせ、ビジネスモデルそのものを変革する方針です。
ここから、海外展開を考える企業に共通する問いが見えてきます。課題は本当に「次にどの国へ進出するか」なのでしょうか。それとも、そもそも事業モデルが拡大に耐えられる状態にないのでしょうか。
海外展開は、新しい国に進出する前から始まっている
海外展開の議論は、地理的な選択から始まりがちです。どの国を選ぶか。どの販売代理店と組むか。現地法人を設立するか。直販かパートナー経由か。いずれも重要ですが、その前に確認すべきことがあります。
市場を広げたときに持続的な成長を生むためには、事業のどの部分を強くする必要があるのか。
HUMAN MADEが示したUNDERCOVERの計画では、買収後の最初の1〜2年間を、積極的な海外拡大よりもビジネスモデルの転換に充てる見通しです。
具体的には、国内百貨店を中心とする販売体制から直営店への段階的な移行、モール型ECから自社ECへのシフト、海外卸売先との関係見直し、事業インフラの強化、商品構成・価格・プロモーションの再検討などが含まれます。高橋盾氏は経営から離れる一方、ヘッドデザイナーとしてクリエイティブを引き続き率いる予定です。HUMAN MADEはバックオフィス、物流、ITなどを含む事業運営面で、より大きな役割を担います。参考:ネットショップ担当者フォーラムによる解説。
本格的なグローバル展開は、その構造転換を進めた先に位置づけられています。この順序こそが重要だと考えます。
ブランド資産と事業基盤は、別の資産である
UNDERCOVERは、知名度そのものが最大の課題というブランドではないでしょう。HUMAN MADEも、30年以上の歴史と世界的な認知を持つブランドだと説明しています。つまり、認知をさらに高めれば成長問題が解決する、という発想から出発しているわけではありません。
焦点は、すでに蓄積されたブランド価値が、どのような事業の仕組みを通じて顧客や収益につながるかにあります。
顧客との関係を誰が持つのか。価格を誰が決めるのか。どの販売チャネルが利益、顧客データ、ブランド体験を生むのか。どの機能を自社に残し、どの機能を外部パートナーに任せるのか。
これらは単なるブランディングではなく、事業運営モデルの設計に関わる問いです。
優れた商品や評価の高いブランドは需要を生みます。しかし、流通の採算性、チャネルの主導権、価格設定、物流、顧客データ、パートナーの役割が噛み合っていなければ、海外展開は既存の構造的な弱点を別の国へ広げるだけになりかねません。
主導権を持つことと、すべてを自社で行うことは違う
ここで誤解したくないのは、すべてのブランドがパートナーをやめ、完全直営に移行すべきだという話ではないことです。HUMAN MADE自身も複数のモデルを使い分けています。
同社の第2四半期決算説明資料によると、四半期売上高の82%をDTC(消費者への直接販売)が占める一方、海外卸売や現地パートナーも活用しています。ソウルのHUMAN MADE JAMSILも、直営ではなく現地パートナーによる運営です。出典:HUMAN MADE 2027年1月期第2四半期決算説明資料、HUMAN MADE JAMSILの発表。
したがって、問うべきは「直営か、パートナーか」という二者択一ではありません。どの領域では自社が主導権を持つ必要があり、どの領域ではパートナーの方が大きな価値を生み出せるのかです。
ある市場では、現地パートナーの販路、人脈、事業運営の知見が、自社で数年かけて構築する以上の価値を持つかもしれません。一方、顧客データ、価格、顧客からの直接的なフィードバックが重要なら、自社ECの運営が戦略上の要になる場合もあります。
どの市場にも通用する唯一のチャネル構造はありません。必要なのは、それぞれの機能が何を実現すべきかを明確にすることです。
数字からも見える、事業構造の重要性
UNDERCOVERの2026年6月期の売上高は約35億9,000万円、営業利益は約6,500万円とされています。
これに対してHUMAN MADEが開示した計画では、おおむね5年をかけて売上高45億〜55億円、営業利益9億〜11億円、営業利益率約20%を目指しています。
ただし、この目標は事業構造の転換を前提としています。計画には1〜2年間の変革期間が組み込まれ、より本格的な利益貢献はその後に見込まれています。
目標が実現するかどうかは、今後の結果を見なければ分かりません。これは実績ではなく、あくまで計画です。現時点で参考になるのは、成長に向けた意思決定の順序でしょう。
海外市場への拡大を最初の成長手段とするのではなく、それを支える事業モデルの整備を先に置いているのです。
海外展開を準備する企業が考えるべきこと
米国進出を検討する日本企業にも、日本参入を考える海外企業にも、まず販売代理店を探す、営業担当者を採用する、現地法人を設立する、ECを始める、といった選択肢が浮かびやすいものです。
しかし、どの手段を選ぶかを決める前に、その手段で何を解決したいのかを明確にする必要があります。
- 主導権:顧客体験、価格、データ、ブランドの見せ方のうち、何を自社でコントロールすべきか。
- 実行能力:進出先で自社が現実的に担える機能は何か。
- 採算性:現在の商品、販路、コスト構造は海外でも成立するか。
- パートナーの役割:外部パートナーには、具体的にどの能力や市場へのアクセスを期待するのか。
こうした問いに答えて初めて、「どのパートナーを選ぶか」が適切な次の質問になります。
ディストリビューターの選定、直接進出、事業開発パートナーとの協業は、単に好みで選ぶ代替手段ではありません。それぞれ解決する課題が異なります。この点については、関連記事「日本市場参入で先に選ぶべきは、ディストリビューターか事業開発パートナーか」でも考察しています。
HMC Perspective:市場を広げる前に、事業モデルを整える
HUMAN MADEとUNDERCOVERの事例で特に興味深いのは、買収そのものよりも、ブランドとしての価値と、拡大可能な事業としての価値は自動的には一致しないという認識です。
企業にはすでに評判、歴史、顧客、海外での認知があるかもしれません。しかし、それらを持続的な事業成長に変えるには、適切な運営構造が必要です。
その構造には直販が含まれるかもしれません。ディストリビューターが必要かもしれません。現地パートナーが不可欠な場合もあります。あるいは、それらの組み合わせかもしれません。
目的は、すべての機能を自社で抱えることではありません。何を自社で管理し、何を共有でき、何を現地の専門家に委ねた方がよいのかを見極めることです。
海外展開の出発点は国境ではなく、その国境を越えられる事業モデルが整っているかどうかを判断するところにある。私はこの事例から、そうした示唆を読み取っています。
英語版:A Strong Brand Is Not Enough: What HUMAN MADE’s UNDERCOVER Deal Shows About Global Growth。本記事は英語版をもとに日本語読者向けに編集・ローカライズしたドラフトです。