Insights / 2026年10月

市場と市場の間で23年——海外事業開発で変わったこと、変わらないこと

H. MIYAO CORP.設立から23年。日本と米国を中心とする市場開拓の現場で学んだ、価値の伝え方、判断、信頼、そして戦略を実行につなげる仕事について。

By Hisashi Miyao 2026年10月23日

今年7月、ニューヨークでH. MIYAO CORP.を設立してから23年を迎えました。

これまでの仕事は双方向に広がってきました。日本企業が米国やその他の海外市場で事業機会を開拓する支援と、海外企業が日本市場を理解し、現地で関係を築くための支援です。

23年という数字は、特別な節目ではありません。記念キャンペーンを行うわけでもなく、盛大に祝う理由があったわけでもありません。ただ、何が変わり、何が意外なほど変わらず、異なる市場の間で仕事を続けることで何を学んだのか、振り返るきっかけにはなりました。

仕事を取り巻く技術は大きく進歩しました。情報は探しやすくなり、コミュニケーションは速くなりました。国境を越えてバイヤー、パートナー、ディストリビューター、意思決定者を見つけることも、以前とは比べものにならないほど容易です。AIは調査を加速させ、知らない市場を理解する助けになります。

いずれも重要な進歩です。しかし、市場が実際に開けるかどうかを左右する判断、文脈、信頼、タイミングまで代替するものではありません。

市場参入は、言葉を翻訳するだけの仕事ではない

国際ビジネスで言語は重要です。しかし、より難しい「翻訳」は別のところにあります。事業の背景、期待、意図、価値、そして商業的な現実を、相手の市場で理解できる形に置き換えることです。

日本で通用する提案が、米国でも同じ伝え方で受け入れられるとは限りません。ニューヨークではすぐ理解されることでも、東京では別の説明が必要な場合があります。優れた製品であっても、相手先や参入時期を誤り、市場に合わない形で商機を提示すれば苦戦します。

問題は適切な単語を選ぶことだけではありません。異なる環境で、その提案をどのような価値として成立させるかを理解することです。

そのため、私自身の役割は一つの職種には収まりません。双方が本当に伝えたいことを解きほぐすこともあれば、必要な人と情報をつなぐこともあります。営業先へのアプローチ、商談調整、フォローアップ、次の打ち手の検討まで実務を担うこともあります。

価値の翻訳、関係者の調整、実行は、しばしば一体の仕事です。

経験によって、見えるものが変わる

経験の価値は、訪れた市場の数や名刺の枚数だけではありません。何に注意を向けるべきかが分かってくることです。

案件を重ねると、一定のパターンが見えてきます。期待できそうな会話でも、事業につながる現実的な道筋がないことがあります。販路開拓の問題に見えて、実はポジショニングの問題であることもあります。資料上は理想的な提携でも、双方の利害、時期、期待が合わず、実現しないことがあります。

速く動くことが常に正解ではない、と考えられるようにもなりました。対象を絞る、小さく試す、待つ、あるいは方向を変える方がよい場合があります。

それは確信が強まるという意味ではありません。むしろ経験を重ねるほど、断定には慎重になります。その一方で、判断の精度は磨かれていきます。

ある米国市場参入案件では、初期の市場開拓支援が、時間とともにより広い現地事業運営の役割へ発展しました。決定的な一度の成功があったわけではありません。現地での事業の位置づけ、変更すべきこと、重要な関係先、顧客の反応、追加投資の妥当性を、一つずつ判断した結果でした。

業界も状況も異なる案件に携わってきましたが、根本的な問いは驚くほど似ています。

商機は本当はどこにあるのか。

価値をどう位置づけるべきか。

誰が関わる必要があるのか。

時間と資金をさらに投じる前に、何を検証すべきか。

そして、次に実行できる具体的な一手は何か。

パターンを見抜く力が不確実性を消すわけではありません。不確実性が高いコストになる前に、より適切な問いを立てる助けになるのです。

人を紹介することは、始まりにすぎない

国際事業開発では、バイヤー、ディストリビューター、事業パートナー、メディア、投資家、現地ネットワークへの「アクセス」が重視されます。もちろんアクセスは必要です。ただし、紹介そのものが最も難しい仕事とは限りません。

重要なのは、誰をつなぐべきかを見極め、その接点に適切な文脈を与え、関係が前に進むまで関与することです。両社が互いに関心を持っていても、提携に対する期待が違う場合があります。面談が盛り上がっても、誰も次のステップを定義しなければ進展しません。

価値があるのは接点そのものではなく、その接点から何が生まれるかです。

HMCが目指すのは、単に双方を紹介することではありません。紹介を対話へ、対話を商機へ、そして条件が整えば、商機を具体的な成果へつなげることです。

成果は取引や売上かもしれませんが、有効な市場テスト、確度の高いパートナーとの対話、あるいは追加投資を見送る明確な判断であることもあります。事業の段階によって、何を成果とみなすかは変わります。

文化的な適合性と商業的な現実

国境を越える事業構想は、文化的にも商業的にも成立しなければなりません。

文化への理解があっても、商業面の規律がなければ対話だけで終わります。逆に商業的な意欲だけが先行し、文化的な文脈を無視すれば、ポジショニングやパートナーを誤り、関係を前に進めるだけの信頼も築けません。

日本と米国の間では、この違いが特に表れます。意思決定の速度、価値の伝え方、関係構築のサイン、リスクやコミットメントに対する姿勢、「前進」とみなす基準が異なる場合があります。

一方の市場を他方に合わせることが目的ではありません。双方を理解し、その間で実際に機能する仕組みをつくることです。

日本への参入を考える海外企業には、加速する前にいったん時間をかけることが必要かもしれません。米国市場を目指す日本企業には、提案をより明確にし、対象を絞り、仮説を積極的に試す姿勢が求められることがあります。

判断を行動につなげる

HMCの仕事が現在の形に発展した理由の一つは、優れた構想が戦略と実行の間で止まってしまう場面を何度も見てきたからです。

市場調査が正しくても、次の一手がなければ前進しません。説得力のあるプレゼンテーションが関心を集めても、その先の動きが生まれないことがあります。良い紹介も、継続的なフォローがなければ途切れます。

実務では、状況を理解し、商機を位置づけ、適切な人をつなぎ、次の行動を実行する。そして意味のある結果が得られるか、方向転換すべき根拠が明らかになるまで関わる、という流れを繰り返します。

最も難しいのは戦略と実行の間です。判断、価値の翻訳、関係構築、地道なフォローアップが同時に必要になるからです。

なぜ今、書き始めるのか

23年という機会に、現場で感じてきたことを文章として残してみようと思いました。

国際市場開拓に万能な公式はありません。どの案件も異なる道筋をたどります。それでも、繰り返し現れる課題や判断のパターンはあります。

このInsightsでは、日本・米国への市場参入、国際事業開発、パートナー開拓、バイヤーへのアプローチ、展示会、ポジショニング、戦略を行動に変える実務を取り上げます。

うまくいく取り組みだけでなく、企業がどこで立ち止まるのか、何が誤解されやすいのか、魅力的に見える商機でも今は進めるべきでない理由についても考えます。

新しい市場への参入、提携先の評価、次の一手を検討する企業にとって、判断の助けになる問いを共有できればと思います。

技術はこれからも変わります。AIは調査を速め、データは企業や人を見つけやすくし、国際コミュニケーションはさらに効率化されるでしょう。

それでも基本となる問いは大きく変わりません。

何が重要なのか。

何が市場に合うのか。

誰と誰をつなぐべきか。

そして、次に何をすべきか。

23年たった今も、学ぶことは続いています。

おそらく、それが一番変わらない教訓なのだと思います。

関連記事:日本市場参入で先に選ぶべきは、ディストリビューターか事業開発パートナーか / 海外企業のための日本市場開拓支援

英語原文:23 Years Between Markets(2026年9月5日公開)。本稿はその日本語版ドラフトです。

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